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神社の登記小資料室 熊谷司法書士事務所

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〒995-0112 山形県村山市大字湯野沢2884番地

基本財産の総額変更登記と資産の総額の変更登記

 はじめに注意しなければならないのは、「基本財産の総額」変更登記と「資産の総額」変更登記は別なものだということです。
 毎年提出している都道府県知事宛届書の財産目録をみればわかるとおり、神社の財産は特殊財産・基本財産・普通財産の3つに分かれています。「資産の総額」とは特殊財産・基本財産・普通財産の合計総額の事で、「基本財産の総額」は3つの財産のうちの一項目の総額にすぎません。そして資産の総額は毎日変動しますが基本財産は不動産の購入や多額の寄付を基本財産に組み入れなど、普通の神社ではめったに変動することはないと思います。「基本財産の総額変更登記は毎年申請しなければなりませんか?」と聞かれたことがありますが、質問された方は恐らく基本財産の総額と資産の総額を混同されていたのではないかと思います。
 宗教法人法上はどのように定められているかというと、宗教法人法では設立時の登記事項として「基本財産がある場合には、その総額」と定められ、それに変更を生じたときは2週間以内に登記しなければならない、とされています。神社の規則に基本財産金額の記載がある場合、当然現在の登記簿にも基本財産の総額が載っているはずですから、不動産の寄付などにより基本財産の総額に変更を生じた場合は県知事の認可を経て規則変更の手続を経てから登記申請をしなければなりません。
 ただ、実際問題として規則に基本財産の総額の記載がないのに毎年基本財産の総額の変更登記を提出する例があるようです。おそらく神社側が資産の総額変更の意味で基本財産の総額の変更登記を提出し、申請を受けた法務局では申請書に規則を添付してもらって基本財産の総額の記載がないことを確認した上で任意的な登記事項として登記しているものと思われます。しかし前述したとおり、規則に基本財産の総額の記載が有る無しを問わず、資産の総額変更という意味での基本財産の総額の変更登記は不要です。
 ここで悩ましいのは規則に基本財産の項目はあるが具体的な金額の記載がなく、登記情報に基本財産の金額が記載されている場合が多々あることです。宗教法人法第12条第1項第8号には規則記載事項として「基本財産、宝物その他の財産の設定、・・・に関する事項」とあり、同法第52条第2項第5号には「基本財産がある場合には、その総額」と規定されております。この2つをどのように解釈すればよいのか少し考えましたが基本財産の登記に関する先例と合わせて考えますと、設立当時、規則には基本財産の規定は設けたけれども基本財産の金額は記載事項とされていないので金額の記載まではしなかった、しかしながら基本財産はあるので設立登記申請ではその金額を登記したものと推測されます。
 基本財産がない神社というのは普通考えられません(教義により物的財産は一切もたない宗教法人というのもあるのかもしれませんが。)ので、規則に金額の記載がなくても土地を購入したり御社殿を新築したりして基本財産の総額に変更を生じた場合、登記申請することになります。この場合規則に変更はありませんので所轄庁の認可は不要となり、上記実際問題として挙げた例と同様、申請書に規則を添付して基本財産の総額の記載がなく規則変更の認可が不要であることを証明した上で、会計帳簿や代表役員の証明書などを添付して変更登記をすることになります。
 ただ、こういった事情が最初にあったような「基本財産の総額変更登記は毎年申請するもの?」という誤解や、逆に「規則に記載がないから変更登記を省略してしまってもいい?」という考え方にもつながってしまっているのだと思います。


神社の合併

 残念ながら、過疎化により神社周辺の集落が限界集落化したり消滅したりしてしまい、やむを得ず近隣地区の神社に祭神を合祀しなければならないときがあります。厳粛に合祀のお祀りをしなければなりませんが、宗教法人登記上でも手続が必要になります。登記申請の際は合祀する神社と合祀される神社の両者で十分に協議した上で、神社庁や所轄庁と十分に協議してから手続に入ってください。基本的な手続の流れとしては
1.規則を確認します。
2.規則の定めに従い総会や役員会を開催して合併の議決をします。
3.本庁統理の許可を得ます。
4.氏子崇敬者と債権者に公告・通知して合併の承認を得ます。
5.所轄庁に認可申請をします。
6.所轄庁から認可書が届いたら登記申請をします。
 合併の登記をするときは合併する神社同士と神社庁と合祀についてよく協議した上で合併の手続きを進める必要があります。協議が不十分だと合併が頓挫してしまうこともありますので、疑問な点不安な点があればよく確認しておき、解決しておきます。また合祀される神社の不動産の登記手続も出てきますので、神社庁・司法書士と相談しながら手続きを進めた方が確実だと思います。

合併にあたっての注意事項その1 基本は吸収合併

 これは包括宗教法人である神社庁の方針としかいいようがないのですが、神社の合併は基本的に吸収合併の形式をとります。現実として神社の合併は氏子数減少などにより消滅する恐れのある神社を現在も活動している神社に合併する、という例がほとんどなので、会社と異なり新設合併、分割合併などはほとんどありません。ただし、会社の合併同様、基本財産の総額(会社でいうところの資本金)増加登記も同時に申請するところは会社の合併登記と同じです。
 神社以外の宗教法人では解散・清算を認める包括宗教法人もありますので、財産の引受手が在る場合はそちらも考慮することも考えられます。合併をお考えの場合はまず包括宗教法人に相談されることをおすすめいたします。

合併にあたっての注意事項その2 御社殿の解体は合併手続き後に

 所轄庁の認可が降りるまで社殿を解体しないでください。包括宗教法人の許可が降りなくなる可能性があります。御社殿が崩壊寸前となった、等の場合、緊急避難的に御神体を他の神社にお移しすることは事後報告でも認められますが、神社役員同士で合意が出来たからといって神社庁に無断で解体してしまうと神社庁の調査・聞き取りが入り、事情説明など余計な負担が発生することになります。また、所轄庁の許可申請にあたっても、公告を行ったことを証明するために添付した写真に御社殿が写っていないと、神社境内地で撮影した写真であることを証明したり、神社庁の了解を得ずに取り壊した事情などを説明しなければならなくなり、合併登記が遅れる原因となります。

合併にあたっての注意事項その3 合併事項により登記も違ってきます

 合併にあたっては基本財産の総額変更登記の他、合併登記では御神体がどこにお移りするかによって目的変更が必要になる場合があります。また、登記事項ではない規則変更認証手続が必要になる場合があります。
1.御神体が本殿に合祀された場合、祭神が増えますので、目的変更が必要になります。
2.合併先の神社に新たに境内社を立てて御神体をお移しした場合、境内社追加の規則変更手続が必要になります。
こういった点も合併契約を締結するときに協議しておく必要があります。

合併にあたっての注意事項その4 貸借対照表・財産目録の作成時期について

 財産目録を作製する時期は、34条第1項の信者その他利害関係人に対する公告後なのか、34条第3項の債権者公告まで完了してからなのか、という問題です。所轄庁に確認したところ、34条第1項の公告後、2週間以内に作製しなさい、という回答でした。34条第2項の条文のとおりですね。ただし、作成日は公告期間満了後から2〜3日後にしてください、という指導が入りました。理由は次項をご参照ください。
 包括宗教法人に合併許可申請をする場合、申請前に宗教法人法34条関係の公告・財産目録作成をしておくことを求めらる場合があります。この場合もし書類不備等で包括宗教法人の許可が遅れたり、許可後の所轄庁への申請が遅れたりすると、所轄庁への合併申請書に添付した貸借対照表・財産目録が古すぎて申請が認められなくなる可能性があります。その場合は結果的に責任役員・総代会の議事からやり直さなければならなくなるので、包括宗教法人に申請する段階で公告を行うことを求められている場合は諸申請をなるべく速やかに行う必要があります。包括宗教法人の許可後合併公告を行う場合でも、宗教法人法上公告期間は2カ月を下らない期間とされているため、所轄庁への申請は包括宗教法人の許可後、速やかに行う必要があります。

合併にあたっての注意事項その5 34条第1項と第3項の公告の時期

 34条第1項と第3項の公告は順番にしなければならないか、同時期に重なってもよいか、という問題です。第1項の信者その他利害関係人への公告期間は規則の規定に従いますが、第3項の債権者公告は第1項の公告期間終了後行わなければならないのか、同時進行でよいのか、という問題です。所轄庁に確認しましたところ、文部科学省の見解として、第1項の公告期間終了後に第3項の債権者公告に行ってください、という回答でした。ただ、公告後にも1日置いてほしいとの所轄庁からの指導がありました。例えば規則に定める公告期間が7日間として、第1項の公告を5月1日に公告した場合、初日不算入なので公告期間終了が5月8日。それに1日プラスして5月9日まで第1項の公告をして、5月10日から2カ月間債権者公告をしてくださいという指導がありました。こちらの公告も初日不算入プラス最終日翌日を参入してください、とのことです。うーん。

解散にあたっての注意事項

 解散する場合も合併と同じでご神体と氏子さんたちをどこのお宮から引き継いでいただくかを決めておかなければなりません。氏子さんがいなくなってしまった場合でも神様をそのままにしておくことはできません。また不動産などの資産がある場合それを処分するめどをつけておくことも必要です。お寺も同じです。そのめどがつかないと本庁(本山)の許可は得られません。

解散から清算結了までの期間は何カ月おかなければならないか

 残念ながら合祀する神社も宗教法人としては解散してしまう場合、2カ月を過ぎないと清算結了はできません。宗教法人法第49条の3の規定により清算人に就任したら2カ月以内に3回官報広告をしなければならないからです。

解散官報公告の掲載手数料

 宗教法人法第49条の3の規定により清算人に就任したら2カ月以内に3回官報広告をしなければなりませんが、その料金がなかなかの金額で、支払える解散宗教法人はなかなかいないのが現実です。ところが官報販売所の手数料を見てみると株式会社などとは別に特殊法人の料金襴があったので、宗教法人はその特殊法人にあたらないのか、と確認してみました。販売所から印刷局に照会していただきましたが、宗教法人は特殊法人にはあたらない、通常料金でお願いします。とのことでした。残念。しかしながら残余財産がほとんどない宗教法人が官報公告を3回する資力があることはまずなく、解散しても清算結了まで持っていくことはできないのが現状だと思います。

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